ひとり暮らしの親の家を訪ねたら、見覚えのない高額な布団や、屋根の工事の契約書が出てきた。
聞けば「来た人が親切だったから」と言う。
一度は解約できたものの、しばらくすると、また別の契約書が見つかった。
この記事は、そうした場面に立ったご家族に向けて書いています。
なぜ家族の手で止められないのか。
成年後見制度を使うと何ができて、何ができないのかを整理します。
成年後見制度は、判断能力がまったくなくなった方だけのものではありません。
日常の暮らしはひとりでできているけれど、大きな契約を本人だけに任せるのは心配、という段階の方も対象になります。
今回は、むしろその段階の方に当てはまる話です。
この記事を読むと分かること
・認知症の親が結んだ契約を、家族が取り消せない理由
・高額な契約が繰り返されてしまう場面
・成年後見制度でできること・できないこと
・「制度を始めれば、これまでの契約も取り消せる」とは限らないこと
・申立ての前に確認しておきたいこと
親は一人で買い物も料理もできている。
とりあえず生活はできているのに、気が付くと高額な契約をしてしまっていて…
やな美さん家族がそばにいられないときが心配です。
1.認知症の親が結んだ契約を、家族は取り消せない
01.契約したのは親本人で、家族に取り消す権限はない
契約は、本人と相手方との間で結ばれたものです。
子どもであっても、親が結んだ契約を、家族の立場で取り消すことはできません。
「母はもう判断ができないので」と業者に伝えても、法律上の権限がない家族からの申し出には、相手方が応じないことがあります。
02.「認知症だから無効」と、すぐには言えない
認知症の診断があるからといって、それだけで契約が無効になるわけではありません。
契約のときに本人がどういう状態だったかが問われ、それをあとから示すのは簡単ではありません。
2.高額な契約が繰り返される場面
01.実家で、高額な布団やリフォームの契約書が見つかる
ひとり暮らしの母の家に、訪問販売で買った高額な布団があった。
テーブルの上には、屋根の工事の契約書もあった。
娘が尋ねると、母は「話を聞いて、良さそうだったから」と言う、という場面です。
➡ 本人は「自分で決めた」と思っています。
家族から見て不要な契約でも、本人が結んだ契約である以上、家族の判断だけでなかったことにはできません。


02.一度は解約できても、また別の契約をしてしまう
ひとつの契約は、なんとか解約できた。
けれども数か月後、今度は電話で勧められた健康食品の定期購入が始まっていた、という場面です。
➡ 家族が毎日そばにいて、契約の場面に立ち会うことはできません。
ひとつずつ後から対応していくだけでは、同じことが繰り返されます。



こんな時、ご本人を責めても解決しません。
3.成年後見制度でできること・できないこと
01.後見人は、本人が結んだ契約を取り消せる
成年後見制度は、判断能力が十分でなくなった方を、家庭裁判所が選んだ人が支える制度です。
成年後見が始まると、本人が自分で結んだ契約は、後見人が取り消すことができます。
取り消された契約は、はじめからなかったものとして扱われます。
ただし、日用品の購入など、日常生活に関する行為は取り消せません。
食料品や日用品の買い物まで制限されるわけではなく、本人の暮らしの自由は残されています。
02.ひとりで暮らせている段階なら、保佐という形もある
今回の場面のように、日常の暮らしはひとりでできている方には、現行の制度の「保佐」が当てはまることがあります。
保佐では、家庭裁判所が保佐人を選びます。
お金を借りる、保証人になる、不動産などの重要な財産を売り買いする、家の新築や増改築・大規模な修繕を頼む、といった重要な行為は、保佐人の同意が必要になります。
本人が保佐人の同意を得ずにこうした契約を結んだときは、本人や保佐人があとから取り消すことができます。
家庭裁判所は、必要に応じて、同意が必要な行為をほかにも加えることができます。
日常の買い物は、これまでどおり本人が自分でできます。
大きな契約の前に、保佐人という「相談相手」が必ず関わる。
そうした形で、本人の暮らしを守っていく仕組みです。


03.取り消せるのは、制度が始まったあとの契約
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
後見人や保佐人が契約を取り消せるのは、家庭裁判所の審判で制度が始まったあとに、本人が結んだ契約です。
制度が始まる前に結んでしまった契約は、後見人や保佐人の取消しの対象にはなりません。
「後見を始めれば、これまでの契約もまとめて取り消せる」と考えて申立てをすると、思っていた結果にならないことがあります。
成年後見制度は、過去の契約を取り消すための制度ではなく、これから先の契約から本人を守るための制度です。
04.すでに結んでしまった契約は、まず消費生活センター(188)へ
すでに結んでしまった契約については、まず消費者ホットライン(局番なしの188)に電話してみてください。
お住まいの地域の消費生活センターなどの相談窓口につながります。
<参照>消費者庁HP「消費者ホットライン」について
<参照>千葉県内にお住まいの方は、お近くの相談窓口をご確認ください。
千葉県HPより「市町村の消費生活相談窓口」
契約の種類や時期によっては、解約できる仕組みが用意されている場合があります。
契約書や領収書、業者とのやり取りのメモなど、手元にあるものをそろえてから相談すると話が進めやすくなります。



後見を始めれば、それまでのも全部取り消せると思っていました。
4.成年後見制度を始めたあとのこと
01.現行では、原則として本人が亡くなるまで続く
現在の制度では、成年後見や保佐は、本人の判断能力が回復しないかぎり、本人が亡くなるまで続きます。
また、後見人や保佐人には、家庭裁判所から専門職が選ばれることもあり、その場合は家庭裁判所が決めた報酬を本人の財産から支払います。
02.改正法で、同意が必要な行為を選べる仕組みに
2026年(令和8年)6月に、成年後見制度を見直す改正法が成立しました。
後見・保佐・補助の3つを「補助」に一本化し、本人の状況に合わせて、必要な行為だけに同意や代理の権限を付ける仕組みに改める内容です。
同意が必要な行為として、預貯金の払戻しなどが法律に掲げられ、そのなかから本人に必要なものを選ぶ形になります。
判断能力が大きく低下している方については、同意が必要な行為をまとめて付けることもできます。
制度を利用する必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、請求により終了できるようにもなります。
施行は遅くとも令和10年(2028年)12月24日までとされており、いまはまだ施行前です。
現時点で申立てをする場合は、現行の制度が適用されます。
5.申立ての前に確認しておきたいこと
01.どんな契約を、どんなきっかけで結んでいるか
まず、これまでにどんな契約を結んでいるかを整理してみてください。
訪問販売なのか、電話での勧誘なのか、通信販売なのか。
金額はどのくらいで、どのくらいの間隔で起きているのか。
契約のきっかけが分かると、電話の対応を見直す、訪問者への対応を家族と決めておく、といった制度以外の工夫で防げる部分も見えてきます。
そのうえで、成年後見制度が必要かどうかを考えることができます。
02.「自分のことは自分で決めたい」という本人の気持ち
成年後見制度を利用すると、本人が自分だけで決められることの範囲が変わります。
本人にとっては、「信用されていない」と感じられることもあります。
制度を使うかどうかを考えるときは、本人の気持ちにも耳を傾けてください。
保佐を始める場合も、保佐人に代理権を与えるには本人の同意が必要です。
本人が納得したうえで使うほうが、その後の暮らしも穏やかに続きます。



まずは一緒に、どんな契約をしてきたのかを振り返るところからですね。



そうですね。
それにご本人が後見人を信頼できることが重要なんです。
6.まとめ
・認知症の親が結んだ契約を、家族の立場で取り消すことはできない
・認知症の診断があっても、それだけで契約が無効になるとは限らない
・成年後見人は、本人が結んだ契約を取り消せる。ただし日用品の購入など日常生活の行為は除かれる
・ひとりで暮らせている段階なら、保佐という形で、重要な契約に保佐人の同意を必要とすることができる
・取り消せるのは、制度が始まったあとの契約。すでに結んだ契約は、まず消費生活センター(188)へ
・制度を考える前に、契約のきっかけと、本人の気持ちを確かめておきたい
成年後見制度は、過去の契約を取り消すためではなく、これからの暮らしを守るための仕組みです。
今どんなことが起きているのか、本人はどう考えているのかを並べてみてから、使うかどうかを考えていただければと思います。
次回は、ご本人に向けて、将来の手続きを頼む人を元気なうちに決めておく方法を取り上げます。
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<出典>
民法第9条(成年被後見人の法律行為)、第13条(保佐人の同意を要する行為等)、第120条(取消権者)、第121条(取消しの効果)、第876条の4(保佐人に代理権を付与する旨の審判)/消費者庁「消費者ホットライン」/民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)
<免責事項>
本記事は、執筆時点の法令にもとづく一般的な情報提供を目的としています。個別の事情によって結論が異なる場合がありますので、具体的なお手続きについては専門家にご相談ください。









