元気なうちに「誰に任せるか」を自分で決める~任意後見制度についてもっと知ろう~2026年6月の法改正のポイント

事務所概要

行政書士わかぞの事務所
代表者 若園しのぶ
所在地 千葉県松戸市常盤平柳町8-8
TEL 047-701-8705
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営業時間 9:00~18:00
休業日 土日祝・年末年始
対象エリア 千葉県北西部


成年後見制度」には二つの大きな仕組みが用意されています。

法定後見」と「任意後見」です。
この記事では、文字通り「任意=自分で決める」制度である「任意後見」について、現行制度の概要と、2026年6月の民法改正によりどう変わるのか?という変更点のポイントをお伝えします。

この記事を読むと分かること

・任意後見制度は、判断能力があるうちに「支援してくれる人」と「任せる内容」を自分で決めておく制度であること

・契約から実際に効力が生じるまでの4つのステップと、費用のおおよその目安

・2026年の民法改正(令和8年法律第45号)で、任意後見が使いやすくなる4つのポイント

・改正法がいつから使えるのか、そして今すでに契約している人はどうなるのか

・任意後見が担当する範囲と、その外側を何で埋めるのか(取消権・死後の事務・医療同意)

目次

1. 任意後見は「自分で選ぶ」制度

終活の場面でよく耳にする「成年後見制度」には、大きく分けて2つの入口があります。

  • 法定後見判断能力が低下した後に、家庭裁判所が支援する人を選ぶ
  • 任意後見判断能力があるうちに、自分で支援してくれる人を選んで契約しておく

このうち任意後見は、「将来、判断能力が不十分になったときに、この人に、この範囲の事務を任せます」という約束を、あらかじめ公正証書で結んでおく仕組みです。

法定後見が「必要になってから家族や周りの人が動く制度」であるのに対し、任意後見は本人が主役の制度です。
誰に任せるか、何を任せるかを、自分の意思で決められる点が最大の違いになります。

※法定後見のしくみと2026年改正については、こちらの記事で詳しく解説しています。

任意後見の3つの特徴

① 支援者を自分で指名できる

子ども、きょうだい、甥姪、信頼している友人、専門職(行政書士・弁護士など)——法律上の欠格事由に当たらなければ、自分で選べます

② 任せる範囲を自分で決められる

「預貯金の管理」「施設入所契約の締結」「自宅の売却」など、代理してもらいたい事務を契約書に列挙します。
書かれていないことは代理できません。

③ 効力が生じるのは「その時」が来てから

契約しただけでは効力は発生しません。
判断能力が不十分になった段階で家庭裁判所に申し立て、任意後見監督人が選任された時に初めて効力が生じます。
契約した翌日から財産を触られる、ということはありません。


2.契約から効力発生までの4ステップ

STEP
任せる相手(任意後見受任者)を決める

長い付き合いになる相手です。「頼めるか」だけでなく、その人自身が高齢になっていないか、遠方に住んでいないか、といった現実的な条件も考えてください。

STEP
任せる内容を決める

代理してほしい事務を具体的に洗い出します。典型的には次のようなものです。

  • 預貯金・有価証券などの管理、払戻し
  • 年金・保険金などの受領
  • 医療契約、入院手続、施設入所契約の締結
  • 介護保険の申請などの行政手続
  • 自宅など不動産の管理・処分

「自宅は最後まで売らないでほしい」といった希望を付記しておくこともできます

STEP
公正証書を作成し、登記する

任意後見契約は必ず公正証書で作る必要があります。
公証役場で本人と受任者が手続きし、作成後は公証人が法務局に登記を嘱託します。

費用の目安(公証人手数料)

項目金額
基本手数料13,000円
登記嘱託手数料1,600円
収入印紙代2,600円

このほかに正本・謄本の証書代、切手代などがかかります。
専門職に契約書の作成を依頼する場合は、別途その報酬が必要です。

STEP
判断能力が低下したら、家庭裁判所へ申し立てる

本人の判断能力が不十分になったら、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。
監督人が選任されると契約の効力が生じ、任意後見人としての仕事が始まります。

任意後見監督人には、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれるのが通例で、その報酬は家庭裁判所が本人の財産状況などをふまえて決定します。契約時点で金額が確定しているわけではない点に注意してください。


3.契約の3つのタイプ

任意後見契約は、他の契約と組み合わせることで、始まるタイミングを調整できます。

タイプ内容向いている人
将来型任意後見契約だけを結び、判断能力が低下したときに発効させる今は元気で、身の回りのことは自分でできる人
移行型財産管理等の委任契約+任意後見契約をセットで結び、まず任意の委任として支援を受け、判断能力低下後に任意後見へ移行する体力の衰えなどで、今から手伝ってほしいことがある人
即効型契約締結の直後に発効させる判断能力がすでに低下しはじめているが、契約を理解する能力は残っている人

移行型は便利な一方で、判断能力が低下しても任意後見に移行させず、委任契約のまま放置されるという運用上の問題が指摘されてきました。
監督が働かない状態が続くためです。

移行型を選ぶ場合は、「誰が移行の申立てをするのか」を契約の段階で決めておくことが重要になります。

将来型にする場合でも、定期的に受任者と連絡を取れる環境が必要です。
なぜなら、自分の判断能力が低下してきたときに、気が付いてもらえるかどうか?が大事だからです。


とき子さん

せっかく契約したのに利用できないままになるっていうこと?

4.2026年民法改正で、任意後見はこう変わる

2026年6月17日、成年後見制度を大きく見直す「民法等の一部を改正する法律」が成立し、同月24日に公布されました。
改正の目玉は法定後見の一元化(後見・保佐を廃止し「補助」に一本化)ですが、任意後見についても「柔軟な利用を可能にする」という方向で見直しが行われています

法務省民事局の資料では、任意後見の改正点として次の4つが挙げられています。

① 任意後見監督人が選任されないケースが新設される

現行制度では、効力を発生させるには必ず任意後見監督人が選任される必要があります。
監督は安心材料である反面、その報酬が継続的な負担になる、という指摘がありました。

改正後は、家庭裁判所が「明らかに任意後見監督人による監督の必要がない」と認めるときは、監督人を選任せず、家庭裁判所が直接監督することが可能になります。

財産が少なく管理内容もシンプルなケースなどで、コストを抑えて任意後見を使える道が開かれることになります。

助手<br>にゃん子<br>

本人の財産が減っていくというマイナス要素がなくなる可能性ですね。

② 「発効の申立てをする人」を自分で指定できる

任意後見の弱点のひとつが、判断能力が低下しても、誰も家庭裁判所に申し立ててくれないと制度が動き出さないことでした。

現行法では申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者に限られており、身寄りのない人ほど発効しにくいという問題があります。

改正後は、本人が公正証書によって指定した者も、任意後見契約を発効させる申立てができるようになります。親族以外でもかまいません。
たとえば日頃から生活状況を把握してくれているケアマネジャーや支援団体の担当者に、「私の様子がおかしくなったら、手続きを始めてください」と託しておくことができるわけです。

やな美さん

おひとりさまにとっては、より安心できる変更ですね。

③ 「予備の任意後見人」を決めておける

任意後見受任者が自分より先に亡くなったり、病気で引き受けられなくなったりする可能性は、決して低くありません。現行制度には、これに備えて次の候補者を用意しておく仕組みがありませんでした。

改正後は、本人と任意後見受任者との間で、任意後見契約の効力を発生させる順序を定める合意ができるようになります。「まず長男に、長男が引き受けられないときは長女に」といった順位付けが可能になるということです。

④ 法定後見が始まっても、任意後見契約が終わらない

現行法では、任意後見の効力が生じた後に法定後見が開始されると、任意後見契約は終了してしまいます。せっかく本人が決めた内容が、そこで消えてしまうわけです。

改正後は、補助の制度の利用が始まっても任意後見契約の存続が認められます
両者の権限が重なる部分については、補助人に与える代理権の範囲を適切に設定して重複を避けることを基本としつつ、調整が必要な場合に備えて任意後見契約の一部解除のルールも新設されます。

本人が自分で決めた部分はできる限り残す——という、改正全体を貫く考え方が表れた変更です。


5.いつから使えるのか/今の契約はどうなるのか

施行は「2028年12月24日まで」に

成年後見制度に関する改正部分は、公布の日(2026年6月24日)から2年6月を超えない範囲内で政令が定める日に施行されます。つまり、遅くとも2028年12月24日までには施行されます。

具体的な施行日を定める政令はまだ出ていません(2026年8月時点)。
今日の時点では、まだ現行の制度が動いているという点に注意してください。

すでに結んだ契約にも改正法が適用される

「今契約すると、古い制度のまま固定されてしまうのでは?」と心配されるかもしれません。

法務省の資料によれば、施行日前に締結された任意後見契約にも、改正後の任意後見契約法が適用されるとされています(ただし、旧法のもとで生じた効力は維持されます)。

つまり、改正を待つ必要はありません
むしろ、契約は本人に判断能力があるうちにしか結べないため、「改正されてから考えよう」と先延ばしにすることのほうがリスクになります。


助手<br>にゃん子<br>

必要だと思われる場合は、早めにご相談をするのが良いですね。

6.任意後見は、備えの「一部」

任意後見は、備えの全部ではありません。担当する範囲がはっきり決まっている制度で、その外側は別の手段が受け持ちます。

これは任意後見の欠点ではなく、設計です。老後の暮らしには、財産管理、契約の取消し、亡くなった後の手続き、医療の判断——性質の違う場面が並びます。ひとつの契約でまとめて引き受けられるものではありません。

大事なのは、どこまでが任意後見の担当で、残りを何で埋めるのかを知っておくことです。ここを押さえておけば、備えの全体像が見えてきます。

① 悪質な契約を取り消す権利はない

任意後見人にあるのは代理権だけです。
本人が結んでしまった不利な契約を取り消す権利(取消権)はありません。
訪問販売などの消費者被害に遭ったとき、任意後見人の立場で契約を白紙に戻すことはできないのです。

この点は改正後も変わりません。取消権が必要な状態になった場合は、法定後見(補助)の利用を検討することになります。

② 亡くなった後の事務は含まれない

任意後見契約は、本人の死亡によって終了します。
葬儀・納骨、施設利用料の精算、遺品の整理、行政手続などは、任意後見人の権限の外です。

これらに備えるには、死後事務委任契約を別途結んでおく必要があります。
そして、財産を誰に渡すかを決めるのは遺言の役割です。

③ 医療行為への同意はできない

手術や延命治療に同意する権限は、任意後見人にはありません。これは法定後見でも同じです。

自分の希望を伝える手段としては、事前指示書(リビングウィル)などを用意し、家族と共有しておくことになります。


7.今日からできる3つの準備

「誰に頼むか」の候補を書き出してみる …その人の年齢、住まい、健康状態まで含めて考えてみましょう。

財産の一覧をつくる…任せる範囲を決めるにも、まず全体像が必要です。

気持ちを言葉にしておく…契約書には書けなくても、想いや希望をどこかに残しておくことには意味があります。


まとめ

任意後見は、判断能力があるうちにしか使えない制度です。だからこそ「まだ早い」と感じる時期こそが、実は適期です。

2026年の改正では、監督人が不要になるケースの新設、発効の申立てを託せる人の拡大、予備の任意後見人の指定、法定後見開始後の契約存続——と、制度を使いやすくする方向で複数の見直しが入りました。施行は2028年末までですが、すでに結んだ契約にも改正法が適用されるため、準備を先送りする理由にはなりません。

まずは公証役場や専門職への相談から始めてみてください。


参照


本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。改正法の施行日は政令で定められるため、最新の情報は法務省ウェブサイト等でご確認ください。個別の事案については、行政書士・弁護士などの専門職にご相談ください。

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