このブログでは、2026年6月の民法改正によって、成年後見制度がどう変わったのか?
私たちはどんな風に、この成年後見制度を利用していったら良いのか?という視点でお伝えしています。
ただ、はじめにお伝えしておくと、成年後見制度は、必ず使わなければならないものではありません。
判断能力が保たれたまま生涯を過ごす方も、家族の支えだけで不自由なく暮らす方もおおぜいいます。
この制度は、判断能力が低下したときに自分を守るための備えであり、防波堤なのです。
必要になる場面が来るかどうかは、誰にもわかりません。
ただ、制度には大きく2種類あり、そのうち一方は、今のあなたにしか選べません。
この記事では、その2つの違いを整理していきます。
この記事を読むと分かること
・2つの制度の本当の違いは「支援の内容」ではなく「誰が決めるか」である
・ケースによって違う、それぞれの制度でできること
・任意後見はあなたが「自分で選ぶ」ことのできる制度
・任意後見契約を結んでいても、法定後見が必要になる場面がある!?
・2026年の民法改正で、両方を併せて使える形に変わること
まつ子さんどっちも後見って名前だし混同しやすいけど…??
1.違いは「支援の中身」ではなく「誰がいつ決めるか」
法定後見と任意後見。名前が似ているので、支援してもらえる内容が違う制度だと思われがちです。
実際には、どちらも財産の管理や契約の手続きを、本人に代わって行ってもらうという点で共通しています。
預金をおろす、施設の入所契約を結ぶ、年金を受け取る——やってもらえることの大枠は、そう変わりません。
違うのは、あなたの代わりにそれらを後見人(補助人)が行うということを、誰が、いつ決めるかです。
| 任意後見 | 法定後見 | |
|---|---|---|
| 決めるタイミング | 判断能力があるうち | 判断能力が低下した後 |
| 誰が支援者を決めるか | 本人 | 家庭裁判所 |
| 誰が支援内容を決めるか | 本人(契約書に記載) | 家庭裁判所 |
| 契約を取り消す権利 | なし | あり |
| 始めるための手続き | 公正証書で契約 → 判断能力低下後に家庭裁判所へ申立て | 本人以外に親族や首長、検察官が家庭裁判所へ申立て |
任意後見は、判断能力があるうちに自分で決めておく制度。
法定後見は、判断能力が低下してから家庭裁判所が決める制度。
この一点が、他のすべての違いを生んでいます。
それぞれの制度の詳細は、以前のブログ記事で解説していますのでご覧ください。
2.ケーススタディで考える
制度の比較表を眺めても、自分の身に何が起きるのかは見えてきません。
法定後見と任意後見を活用する場面で、それぞれの特性を考えてみます。
01.「自宅を売って、施設に入るための資金にしたい」
➡同じ結果になるとは限りません。
任意後見なら、契約書に不動産の処分を入れておけば、本人が与えた権限にもとづいて手続きが進みます。
「売るのは構わないが、この時期までは待ってほしい」といった希望も、あらかじめ伝えておけます。
判断の出発点が、本人の意思にあるということです。
法定後見では、売るかどうかを判断するのは後見人と家庭裁判所です。
基準になるのは本人の希望ではなく、本人にとって必要かどうか。
生活費や施設費用のために必要と認められなければ、売却は認められません。
居住用不動産など大きな財産の処分には、家庭裁判所の許可が必要です。
法定後見は本人を守るための仕組みですが、裏を返せば、元気なうちに望んでいたことが、そのまま実現するとは限らないということです。



いざとなったら家を売ればいいと思っていたけど…
売れないかもしれないってこと?
02.「訪問販売で、高額なリフォーム契約をしてしまった」
➡任意後見だけでは対応できない場面です。
任意後見で任せられるのは、本人に代わって手続きをしてもらうことです。
すでに結んでしまった契約を取り消す権限までは含まれません。
こうした場面で本人を守る役割を担うのは、法定後見のほうです。
現在の後見では包括的な取消権が与えられており、法改正後の補助人も、特定補助人であれば取消権を持つことが可能です。



後見人が何でもかんでも取り消せるわけではないのですね。
03.「認知症と診断されたが、まだ自分で決められることもある」
➡任意後見を選べる可能性があります。
認知症と診断を受けた時点で、もう自分では何も決められないと考えてしまう方がいます。
ですが、認知症は人によってあらわれ方や進み方も様々で、一概に判断能力がない、とは言い切れません。
自分で決めたい、自分の希望をかなえたい、という意思があるならば、任意後見契約を検討する最後の機会になるかも知れません。
任意後見契約に必要なのは、契約の内容を理解し、自分の意思で結べることです。
診断名がついていても、この能力が残っていれば契約できます。
実際に、診断後に契約を結ぶ方は少なくありません。
判断能力があるかどうかは、公証人が本人と面談して確認します。
そこで難しいと判断されれば契約はできませんが、確かめてみる価値はあります。


3.自分で選べるのは、任意後見だけ
冒頭でお伝えしたとおり、備えの形は2つあります。ただ、この2つは並んだ選択肢ではありません。
法定後見は、本人が選ぶ制度ではないからです。
判断能力が低下した後、必要が生じたときに申立てによって始まります。
元気なうちに「私は法定後見にする」と決めておくことはできません。
選べるのは、任意後見のほうだけです。
そして選ばなかった場合、自分の代理となってくれる人が必要になったときに残っているのは法定後見という道になります。
任意後見をお勧めする理由は、制度として優れているからではありません。
「自分で決められる」のが、任意後見だからです。
4.任意後見契約を結んでいても、法定後見が必要になる!?
任意後見を契約しておけば、法定後見とは無縁でいられる——というわけではありません。
先ほどの訪問販売の例のように、任意後見では対応できない場面が出てくることがあります。
任意後見の契約内容に入っていない事務が必要になることもあります。
現行制度では、こうした場合に問題がありました。
任意後見の効力が生じた後に法定後見が開始されると、任意後見契約は終了してしまうのです。
せっかく本人が決めておいた内容が、そこで消えてしまいます。
2026年の改正では、ここが変わります。法定後見(補助)の利用が始まっても、任意後見契約は存続できるようになりました。
重なる部分は調整しつつ、本人が自分で決めた部分はできる限り残す。そういう設計です。
5.ご家族がこの記事を読んでいる場合
ここまでは、ご自身の備えを考える方に向けて書いてきました。
高齢の親御さんのことを考えてこの記事にたどり着いた方に、2点だけ。
01.まだ判断能力がある場合
任意後見という選択肢があります。ただし、これは本人にしか決められません。
ご家族にできるのは、契約を勧めることではなく、話し合いの場をつくることです。
「後見の話をしたい」と切り出すと、財産を狙われていると受け取られることがあります。
入口を変えてみてください。「入院したとき、誰に手続きを頼む?」「この家、どうしたい?」——具体的な場面から入ると、話が進みやすくなります。



まだちゃんと話ができる段階で良かった!
02.すでに判断能力が低下している場合
任意後見は使えません。この記事の内容は、残念ながら当てはまりません。
その場合は法定後見が選択肢になります。
2026年の改正で、必要な行為だけに絞った利用や、目的を果たした時点での終了ができるようになりました。
かつての「一生続く重い制度」ではなくなっています。詳しくは法定後見の記事をご覧ください。



ご本人の意向を尊重して守ってくれるのが後見人(補助人)です。
法定後見でもそれは変わりありません。
6.まとめ
法定後見と任意後見は、どちらが優れているとか劣っているという訳ではなく、役割が違います。
任意後見は、自分の守り方を本人が決めておく制度。
法定後見は、自分で決められなくなった後に本人を守るための制度です。
そして、自分で選べるのは任意後見だけです。
今この記事を読み、内容を理解できているなら、あなたはまだ選べる側にいます。
まずは「誰に頼むか」を考えてみることから始めてみてください。
それが、備えの第一歩です。
<出典>
・法務省民事局「成年後見制度に関する制度改正の状況について」(令和8年7月)
・民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)
・任意後見契約に関する法律
本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。改正法の施行日は政令で定められるため、最新の情報は法務省ウェブサイト等でご確認ください。個別の事案については、行政書士・弁護士などの専門職にご相談ください。
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