認知症の親の自宅を売却できない!?~成年後見制度の活用場面②

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行政書士わかぞの事務所
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親が施設に入り、実家が空き家になった。
固定資産税や庭の手入れの負担もあるので、家を売って施設の費用に充てたい。
ところが不動産会社に相談すると、「ご本人の意思が確認できないと進められません」と言われた。

この記事は、そうした場面に立ったお子さんに向けて書いています。
親のためを思ってのことなのに、なぜ売却が進まないのか。
成年後見制度を使うと何ができて、何に気をつける必要があるのかを整理します。

なお、成年後見制度は、判断能力がまったくなくなった方だけのものではありません。
ひとりで暮らせてはいるけれど、家の売却のような大きな契約を本人だけに任せるのは心配、という段階の方も対象になります。

この記事を読むと分かること
・認知症の親の家を、子どもが代わりに売れない理由
・実家の売却が、どの段階で止まるのか
・成年後見制度でできること・できないこと
・自宅の売却に必要な「家庭裁判所の許可」とは何か
・売却を考える前に確認しておきたいこと

やな美さん

母はもう施設で落ち着いているし、実家は誰も住んでいないんです。

とき子さん

そうよね、空いたままにするより売った方が良いと思うけど…?

目次

1.認知症の親の家を子どもが売れない理由

01.家は名義人である親本人の財産で、売るには本人の意思が必要

家と土地は、登記の名義人である親本人の財産です。
売るかどうか、いくらで誰に売るかを決められるのは、本人だけです。

売買は契約ですから、本人が内容を理解したうえで「売ります」と意思を示すことが前提になります。
認知症が進んで、その理解や判断が難しい状態では、契約を結ぶことができません。

02.子どもが代わりに売買契約を結ぶことはできない

子どもであっても、親に代わって売買契約を結ぶ権限はありません。
親から頼まれていれば代理人として動けますが、それは親に「頼む」だけの判断能力があってこそです。

本人の意思が確かめられないまま家族が話を進めても、その契約は、あとから効力を否定されるおそれがあります。
買い手にとっても大きな不安になるため、取引そのものが成り立ちません。

2.空き家になった実家の売却が止まる場面

01.親が施設に入り、実家を売って施設費用に充てたい

母が施設に入り、実家は空き家になった。
施設の費用はこの先も続くので、家を売って充てたい。
長女がそう考えて、不動産会社に相談した、という場面です。

➡ 不動産会社は、名義人である母本人が売却を望んでいるかを確認します。
本人の意思が確認できなければ、売却の話は先へ進みません。

02.買い手が見つかっても、契約と登記の場面で本人の意思確認がある

仮に話が進んで買い手が見つかったとしても、その先に2つの場面があります。
売買契約を結ぶ場面と、名義を買い手に移す登記の場面です。

➡ どちらの場面でも、売主である本人に売る意思があるかが確認されます。
ここで確認ができなければ、契約も登記もできません。

やな美さん

空き家のままにしておくのは心配なのに…

助手にゃん子

そうですね。ただ、家を売ることはご本人の
暮らしの土台を変える大きな決定です。

だからこそ、何重にも確認が入る仕組みになっています。

3.成年後見制度でできること・できないこと

01.後見人が本人に代わって売買契約を結べる

成年後見制度は、判断能力が十分でなくなった方に代わって、財産の管理や契約をする人を、家庭裁判所が選ぶ制度です。
成年後見人が選ばれると、後見人が本人に代わって不動産会社に依頼し、売買契約を結び、代金を受け取ることができます。
受け取った代金は本人の財産として後見人が管理し、施設の費用などに充てていきます。

令和7年の統計では、申立ての動機として「不動産の処分」を挙げたものが36.3%にのぼります(動機は複数挙げられる場合があります)。
家の売却をきっかけに制度の利用を考える方は、少なくありません。

02.ひとりで暮らせていても、重要な契約が不安な段階から使える

成年後見制度は、判断能力がまったくなくなった場合だけの制度ではありません。

日常の買い物や身の回りのことはできている。
けれども、家の売却のような重要な契約となると、内容を十分に理解して判断できるか心配だ。
そうした段階でも利用できます。
現行の制度では「保佐」にあたります。

保佐では、家庭裁判所が保佐人を選びます。
そのうえで、不動産の売却について保佐人に代理権を与える審判がされると、保佐人が本人に代わって売買契約を結べるようになります。
この代理権を与えるには、申立てに加えて、本人の同意が必要です。

目的は、本人を守ることです。
内容をよく理解しないまま、不利な条件で契約してしまうことを防ぎます。
本人の意向を聞きながら、保佐人が契約の相手方とやり取りをする、という形になります。

03.自宅の売却には家庭裁判所の許可が必要

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

後見人や保佐人が選ばれても、それだけで自宅を売れるわけではありません。
本人の住まいである建物や敷地を売るには、あらためて家庭裁判所の許可を得る必要があります。
許可を得ずにした売却は、無効とされています。

本人がいま住んでいる家だけでなく、施設に入る前に住んでいた家も、この「住まい」に含まれます。
空き家になった実家も対象です。

住む環境が変わることは、本人の心身や生活に大きな影響を与えます。
そのため、後見人や保佐人だけの判断ではなく、家庭裁判所が確認する仕組みになっています。

まつ子さん

勝手に売られてしまう、ってことがないのは安心だね

04.許可は「本人のために必要か」で判断される

家庭裁判所は、その売却が必要かどうか、条件が適切かどうかを見ます。
許可の申立てでは、次のようなことを書面で示します。

・売却が必要な理由(施設に入って家が不要になった、施設の入所資金や医療費・生活費に充てる、建物が古くなり維持に費用がかさむ、など)

・売却について、本人が同意しているか

・売却したあと、本人がどこで暮らすのか

・売買契約の内容(価格や条件)

いずれも、本人の暮らしと財産にとってどうか、という視点です。
売却の理由は、家族の都合ではなく、本人の事情として説明できることが前提になります。

成年後見制度は「家を売るための制度」ではなく、「売ることが本人のために必要かを確かめたうえで、手続きを進める仕組み」です。

4.成年後見制度を始めたあとのこと

01.売却が終わっても、現行では後見は続く

現在の制度では、成年後見は、本人の判断能力が回復しないかぎり、本人が亡くなるまで続きます。
家の売却が終わったからといって、そこで終わりにすることはできません。

また、申立てから後見人が選ばれるまで、さらに売却の許可を得るまでには、それぞれ一定の期間がかかります。
「来月までに売りたい」といった急ぎの予定には、合わせにくい制度です。

02.改正法で、必要な範囲だけ使える仕組みに変わる予定

2026年(令和8年)6月に、成年後見制度を見直す改正法が成立しました。

後見・保佐・補助の3つを「補助」に一本化し、必要な行為について必要な権限だけを付ける仕組みに改める内容です。
制度を利用する必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、請求により終了できるようにもなります。

施行は遅くとも令和10年(2028年)12月24日までとされており、いまはまだ施行前です。
現時点で申立てをする場合は、現行の制度が適用されます。

5.売却を考える前に確認しておきたいこと

01.施設費用を預金でまかなえるか、本人が自宅に戻る可能性はあるか

まず確認したいのは、本人の預金や年金で、施設の費用をどのくらいの期間まかなえるかです。
当面まかなえるのであれば、売却を急ぐ必要はないかもしれません。

もうひとつは、本人が自宅に戻る可能性です。
体調が落ち着けば戻りたい、という本人の気持ちがあるなら、それは大切に扱われるべきものです。

この2つは、家庭裁判所が許可を判断するときに見る点とも重なります。
先に家族で整理しておくと、制度を使うかどうかも考えやすくなります。

02.判断能力があるうちなら、本人が決めておける

親御さんにまだ十分な判断能力があるなら、家をどうしたいかを、本人が自分で決めておくことができます。

施設に入ることになったら家は売ってよいのか、できれば残したいのか。
本人の考えを聞いておくだけでも、あとで家族が迷う場面は減ります。

将来の手続きを任せる人と内容を、あらかじめ契約で決めておく任意後見という備え方もあります。

やな美さん

売ることばかり考えていましたけれど、
まずは確かめるところからですね。

6.まとめ

・家は名義人である親本人の財産で、子どもが代わりに売買契約を結ぶことはできない。

・売却の相談、売買契約、登記のそれぞれの場面で、本人の意思確認がある。

・成年後見人は、本人に代わって売買契約を結べる。判断能力が残っている段階でも、保佐という形で利用できる。

・自宅の売却には、後見人や保佐人が選ばれたあと、さらに家庭裁判所の許可が必要。

・許可は「本人のために必要か」で判断され、売却の理由を本人の事情として説明できることが前提になる。

・まず、施設費用を預金でまかなえるか、本人が自宅に戻る可能性はあるかを確認したい。

実家をどうするかは、親御さんの暮らしと気持ちに関わることです。
急いで結論を出すより、費用の見通しと本人の考えを並べてみるところから、始めていただければと思います。

次回は、判断能力が落ちた親が結んでしまった高額な契約を取り消したいときのことを取り上げます。

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<出典>
民法第13条(保佐人の同意を要する行為等)、第859条(財産の管理及び代表)、第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)、第876条の4(保佐人に代理権を付与する旨の審判)、第876条の5(保佐の事務及び保佐人の任務の終了等)/最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―」/民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)

<免責事項>
本記事は、執筆時点の法令にもとづく一般的な情報提供を目的としています。個別の事情によって結論が異なる場合がありますので、具体的なお手続きについては専門家にご相談ください。

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