前回の記事では、公正証書遺言についてメリット・デメリットを解説いたしました。
前回記事はこちら➡
今回はもうひとつの代表的な方式である「自筆証書遺言」を取り上げます。
自筆証書遺言は、紙とペン、印鑑さえあれば今日からでも書き始められる、もっとも手軽な遺言の方式です。
ただ、手軽であるがゆえに、書き方を少し間違えただけで無効になってしまったり、せっかく書いたのにご家族が困ってしまう「残念な遺言書」になってしまったりすることも少なくありません。
今回の記事では、自筆証書遺言を書くときに守らなければならないルールと、実務上とくに気を付けていただきたいポイントについて解説いたします。
これから遺言書を書こうと考えていらっしゃる方は、ぜひ参考にしてみて下さい。
自筆証書遺言とは

1. 自分の手だけで完成できる遺言
自筆証書遺言とは、遺言者ご本人が、全文・日付・氏名を自分の手で書き、押印することで作成できる遺言書です。
公証人や証人の立会いは不要ですし、費用もかかりません。
思い立ったその日から書き始められるというのは、自筆証書遺言ならではの大きな魅力だと思います。
まつ子さん自筆証書遺言って、結局どんな遺言?



「全文・日付・氏名を自分で手書きして、押印する」だけで作れる遺言です。民法968条にその要件が定められています。
※2026年6月に「民法等の一部を改正する法律」が成立し、押印に関しては要件が変更される予定です。
(ブログの内容は記事作成時点2026年7月時点の情報によります。)
2. 手軽さの裏にあるリスク
このように手軽に作れる自筆証書遺言ですが、その分、方式のルールを一つでも欠くと無効になってしまうという、シビアな一面もあります。
公正証書遺言であれば、公証人という法律の専門家が形式面をチェックしてくれます。
ですが自筆証書遺言には、そのようなチェック機能がありません。
だからこそ、ご自身で書かれる際には、次にご紹介するポイントをひとつずつ確認しながら進めていただきたいと思います。
有効な遺言書にするための7つのポイント


1.全文を自分の手で書く
パソコンやワープロで作成した本文は無効です。ご家族による代筆も認められません。
ただし、財産目録についてだけは例外が認められています。(後で解説します)。
2.作成日は「特定できる形」で書く
【ここが最重要ポイントです】
「令和8年7月吉日」というような書き方は、日付が特定できないという理由で無効とされてしまいます。
「令和8年7月〇日」というように、年月日をはっきりと書きましょう。
実務上もっとも見落とされやすいポイントのひとつです。
3. 氏名は戸籍どおりに自筆する
普段お使いの通称でも法律上は足りるとされていますが、後々の手続きをスムーズにするためにも、戸籍上の氏名で書いておく方が安心です。
4. 押印を忘れない
実印である必要はありませんが、認印よりも実印の方が、のちのちのトラブル防止という意味では安心感があります。
2026年6月に「民法等の一部を改正する法律」が成立しました。
その中で自筆証書遺言に関しての「押印廃止」が定められたので、今後は押印がなくとも法的に問題はない、ということになります。
この遺言書の押印にかかる部分については、2027年6月頃に施行される見通しです。
5. 誰に・何を、を具体的に書く
「長男○○に▲▲を相続させる」というように、財産と相続人が誰なのかを明確に対応させて書きます。
不動産であれば登記事項証明書のとおりに、預貯金であれば金融機関名・支店名・口座番号まで書いておくと、いざ手続きをするご家族が迷わずに済みます。
(例)土地
所 在:千葉県松戸市中央1丁目
地 番:100番地100
地 目:宅地
地 積:300㎡
6. 財産目録はパソコンでの作成もOK
平成31年(2019年)の法改正により、財産目録に限ってはパソコンでの作成や、通帳のコピーを添付することが認められるようになりました。
ただし、目録の各ページに署名・押印が必要になりますので、ここは忘れずに行ってください。
この目録の各ベージへの押印という部分も、2026年6月の法改正により、遺言書本文同様に廃止される方向です。(2027年6月頃施行予定)



財産目録だけパソコンでもいいって本当?



本当です。ただし本文(誰に何を相続させるかを書く部分)は、これまでどおり全文自筆でなければなりません。目録の全ページへの署名・押印もお忘れなく。
7.訂正の仕方にも決まりがある
書き間違えてしまった場合、訂正の仕方にも法律で決められた方式があります(訂正箇所を示し、署名・押印をするなど)。
この方式どおりに訂正しないと、訂正そのものが無効になってしまうこともあります。
正直なところ、訂正するよりも、最初から書き直した方が確実な場合も多いように思います。
こんな間違い、実は多いのです


実際にご相談をお受けする中で、次のような自筆証書遺言に出会うことがあります。
・財産目録以外の部分をパソコンで作成してしまっている
・日付や氏名の記載が抜けている
・押印がない
・「誰に」「何を」が曖昧で、かえって相続人同士でもめる原因になりそうなもの
・訂正の仕方を誤り、訂正自体が無効になってしまっているもの
せっかく書いた遺言書が、こうした理由で「使えない遺言書」になってしまうのは、本当にもったいないことだと思います。
前回の記事でも触れましたが、方式ばかりに気を取られず、内容の整理も同じくらい大切にしていただければと思います。
自筆証書遺言書保管制度も検討を


自筆証書遺言には、ご自宅で保管している間に紛失したり、どなたかに書き換えられてしまったりするリスクもつきまといます。
これを防ぐ方法として、法務局による「自筆証書遺言書保管制度」があります。
この制度を利用すると、次のようなメリットがあります。
・紛失や改ざんのリスクを防げる
・家庭裁判所での「検認」という手続きが不要になる



検認ってなに?



遺言書の状態を家庭裁判所で確認してもらう手続きです。自筆証書遺言は原則として必要ですが、法務局に保管している場合は不要になります。
せっかく書いた自筆証書遺言を確実に活かすためにも、この保管制度は積極的に検討していただきたいと思います。
まとめ:自筆証書遺言も「事前の整理」が大切
自筆証書遺言は、思い立ったその日から書き始められる、身近な遺言の方式です。
ただ、その手軽さの裏側には、ルールをひとつ欠いただけで無効になってしまうという厳しさもあります。
そして前回の記事でもお伝えしたとおり、これは公正証書遺言であっても同じことなのですが、方式さえ整えば安心、というものでもありません。
「その遺言で、実際にご家族がスムーズに手続きできるかどうか」
ここを一度イメージしてみることが、自筆証書遺言であっても、公正証書遺言であっても、共通して大切なポイントだと思います。
内容に不安がある、確実に希望どおりの形で残したい、という方は、おひとりで抱え込まず、専門家に相談してみるのも一つの方法です。










