いざ、相続が発生したときに、亡くなった方が遺言書を残していれば、基本的にはその通りに遺産は分割されます。
遺言執行者とは、その遺言書の内容を実現していくために必要な、一切の事務を執り行う人です。
相続人のうちの一人が遺言執行者に指定されている場合が多いですが、中には遺言執行者が指定されていない遺言書もあります。特に自筆証書遺言を残しているケースでは少なくないでしょう。
ここでは遺言執行者の役割および義務と権限について解説いたします。
遺言執行者の指定
相続が発生すると、まずは遺言書の確認をします。
被相続人が有効な遺言書を残していれば、次はその遺言書に従って遺産分割を行いますが、ここで遺言執行者が指定されていなければ「遺言執行者の選任申立て」を家庭裁判所に行うことになります。
遺言執行者選任申立ての手続き
【申立先】遺言者の最後の住所地の家庭裁判所
【必要な費用】
遺言書1通につき収入印紙800円分、連絡用切手(家庭裁判所に確認します。)
【必要な書類】
①申立書(書式、及び記載例は裁判所のサイトにあります。)
②添付書類
・遺言者の戸除籍謄本
・遺言執行者候補者の住民票又は戸籍附票
・遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し
・利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本等)
この申立てを経て遺言執行者が決まるまで、大体約2ヶ月程度はかかってしまいます。
急ぐ必要のない相続であれば良いかも知れませんが、そもそも遺言執行者が指定されてさえいれば、相続発生後すぐに手続きに取りかかれるので、家族の負担を減らすという意味でも、遺言執行者はあらかじめ指定しておいた方が良いでしょう。
また相続人ではない第三者に遺贈をする、という内容の遺言書を残した場合、財産に不動産が含まれていると、登記手続きが煩雑になりがちですが、遺言執行者がいればこの部分がかなり軽減されます。
遺言執行者の義務
『遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない』(民法第1007条2項)
これは2019年7月1日より施行された改正民法です。
それまでは遺言執行者の義務として、相続人への通知義務は明記されていませんでしたが、この法改正により、相続人(実際には財産を相続しない人も含めて)へ相続が開始したことと、遺言書の内容を通知する義務が明文化されました。
また、元からあった義務として、財産目録の作成と交付、があります。
遺言執行者の権限
『遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。』(民法1012条1項)
『遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。』(民法1012条2項)
遺言執行者が指定されている場合に相続人は、遺言執行者の遺言の執行を妨げる行為をしてはならず、相続人が相続財産を処分したとしても、原則としてそれは無効になります。
遺言執行者ができること
・遺贈
・相続財産の各種名義変更
・預貯金の解約
・払い戻しと相続人、受遺者への交付
・寄付
・子供の認知
・相続人の排除やその取り消し
また2019年施行の改正民法により、遺言執行者の権限の範囲が明確化されたことで、以下のようなことも遺言執行者単独で行えるようになりました。
・不動産の受遺者への相続登記
・預貯金の解約、払い戻し
・車の所有者名義変更や動産の引き渡し
遺言執行者の復任権
遺言内容の実現に大きな役割と権限を持つ遺言執行者ですが、それだけに相続人のうちの一人が指定されていた場合は、責任も負担も大きくなるでしょう。
従来、遺言執行者の任務を第三者に任せることは「やむを得ない事由」がない限り認められていませんでしたが、こちらも2019年施行の改正民法により、自己の責任で第三者へ任務を任せることができるようになりました。
ただし2019年7月1日以降に作成された遺言書に限られ、また遺言書において遺言者が復任を禁止している場合を除きます。
遺言執行者を指定するメリット
せっかく遺言書を作成したとしても、遺言執行者が決まっていなければ、相続の開始に時間がかかったり、遺言の執行のために相続人それぞれが各自の相続分の手続きを分担して行うことになり、負担をかけてしまいます。
・遺言内容の確実な実現
・相続人の負担を減らす
・第三者へのスムーズな遺贈
これらのメリットを考え、遺言書を作成するときには、遺言執行者もあらかじめ指定しておくのが良いでしょう。
遺言執行者の義務と権限まとめ
遺言執行者に指定された人は、多大な責任を負うことになります。
ですが、正式に遺言執行者が第三者へ任務を任せることができるようになりました。
もしもご自分が遺言執行者として「手続きを進めなければならない」けれど「時間も取れないしよく分からない」という場合は、ぜひ専門家を頼ってください。
また、遠からず遺言の執行があることを見据えて、遺言書を作成される方は、ぜひ遺言執行者として当初から専門家を指定することもご検討ください。
遺言書の作成段階から、遺言執行までを見据えたサポートを受けることで、相続人の負担を減らし、ご自分の意思の実現に大きく近づくことでしょう。
弁護士、司法書士のほか、行政書士も遺言書作成から遺言執行までお任せいただくことができます。
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