遺言書が必要な理由~「うちはもめない」家庭でも相続が止まる2つの場面

事務所概要

行政書士わかぞの事務所
代表者 若園しのぶ
所在地 千葉県松戸市常盤平柳町8-8
TEL 047-701-8705
Mail  お問い合わせ
LINE   お友達追加
営業時間 9:00~18:00
休業日 土日祝・年末年始
対象エリア 千葉県北西部

遺言書はなぜ必要なのか。

「遺言書を書きたい」というご相談をお受けしている立場でも、この問いについて「こうだから」とひとことで言い切るのは簡単ではありません。

そこで、この問いについて比較的短めの記事を何回かに分けてお届けします。
1回目の今回は、遺言書を書く・書かないの前にある「うちは大丈夫」という感覚そのものを、少しだけ点検してみる回です。

先にお伝えしておきますと、この記事は「あなたのご家族も危ないですよ」と申し上げるものではありません。
むしろ逆で、ご家族の仲の良さは本物だという前提のまま、それでも手続きが止まってしまう場面がある、というお話をします。

この記事を読むと分かること

  • 家庭裁判所に持ち込まれている相続の争いが、どういう家庭で起きているか
  • きょうだい仲が良くても、遺産分割の話し合いが進まなくなる仕組み
  • 子どものいないご夫婦で、遺言書があるかないかによって手続きが大きく変わる理由
  • 遺言書を「家族を疑う道具」にしないための、考え方の置きどころ
まつ子さん

ウチの子ども達は仲が良いから、遺言書なんて水くさいと思われそうで

助手にゃん子

その感覚、とても多いんです。
ただ、つまずくところは仲の良し悪しとは別のところにあるんですよ。

やな美さん

なるほど。
じゃあ今日は「疑う話」じゃなくて「仕組みの話」なんですね!

目次

1.「うちはもめない」は本当でも、相続の手続きは止まります

01.相続でもめている家庭の約8割は、遺産5,000万円以下

相続の争いというと、大きな資産を持った家の話だと感じる方が多いと思います。

ところが、家庭裁判所で実際に解決された遺産分割の件数を遺産額別に見ると、1,000万円以下がおよそ35%、1,000万円を超えて5,000万円以下がおよそ42%です。

合わせると、家庭裁判所で調停に持ち込まれた事件の、全体の約8割が遺産総額5,000万円以下ということになります。

<参照>最高裁判所事務総局 司法統計年報「令和7年 司法統計年報 3 家事編」より
第52表「遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く)―遺産の内容別」

これは「みんなもめている」という話ではありません。
ただ、遺産相続でもめるかもめないかというのは、資産の大きさとはあまり関係がない、ということは言えます。

02.遺産分割協議は、相続人全員の合意がないと成立しない

亡くなった方の財産を分けるには、原則として相続人全員が話し合い、全員が合意する必要があります。
多数決ではありません。一人が「保留したい」と言えば、そこで止まります。

つまり相続の手続きには、全員の足並みがそろわないと一歩も進まない部分があります。
ここは、家族の人柄や関係性でどうにかできる場所ではありません。

仲が良いご家族は、この部分を早く抜けられます。
抜けられますが、通らずに済むわけではないのです。

助手にゃん子

ここからは具体的な事例をご紹介しますよ

2.ケース1 きょうだいの相続で、実家の分け方が決まらない

01.何が起きたか

お父さまが亡くなり、相続人はお子さん3人。
財産は、お父さまが住んでいた自宅と、預貯金が少し。
長男さんが同居して介護をしていました。

他のきょうだい2人とも「兄さんがそのまま住めばいい」と考えていて、そこに争いはありませんでした。
ところが、自宅の名義を長男さんに変える段になって、話が止まります。
名義を変えるには、3人全員が「自宅は長男が取得する」と書面にして、実印を押さなければなりません。

その書面を前にして、長女さんがふと言いました。

「私の分は、どうなるのかな?」…悪意ではありません。お子さんの学費が重なっていた時期でした。

長男さんには、その分を現金で渡す余裕がありませんでした。

➡ 止まったのは気持ちではなく、「分けられない財産を、全員の合意で分ける」という形のほうでした。

02.つまずいたのは、気持ちではなく形

自宅のような不動産は切り分けられません。
売って現金にするか、住む人が他の相続人に相応の金額を渡すか、そのどちらかを全員で選ぶことになります。
この選択は、誰かが必ず我慢する形になりやすいものです。

もし遺言書があれば、この話し合いそのものが不要になります。
「自宅は長男に」と書いてあれば、3人が書面を囲む場面は生まれません。

ただし、お子さんには最低限の取り分を求める権利が残ります。

遺言書を書けば何でも思いどおりになる、というわけではありません。
だからこそ、遺言書には「なぜそう分けたのか」を書き添えることが重要になってくるのです。

助手にゃん子

「介護してくれた人に多めに」という理由が本人の言葉で残っているかどうかで、受け取り方はずいぶん変わります。

3.ケース2 子どもがいない夫婦は、配偶者ときょうだいが相続人になる

01.何が起きたか

お子さんのいないご夫婦で、ご主人が亡くなりました。
ご主人のご両親はすでに他界しています。

この場合、相続人は奥さまと、ご主人のきょうだいです。
きょうだいのどなたかが先に亡くなっていれば、その子である甥・姪が代わりに相続人になります。

奥さまは自宅にそのまま住み続けるつもりでした。

ところが、自宅の名義変更にも、預金の解約にも、相続人全員の署名と印鑑証明書が必要になります。

ほとんど面識のない甥御さんの連絡先を調べて手紙を書き、事情を説明し、書類を郵送でやり取りする。
相手に悪気がなくても、往復には時間がかかります。連絡先が分からないこともあります。

➡ 奥さまが困ったのは相手の態度がどうということではなく、「その方たちが相続人である」という一点でした。

02.遺言書があると、ここが変わる

このケースは、遺言書があるかないかで結果がはっきり分かれます。

きょうだいや甥・姪には、最低限の取り分を求める権利がありません。
ですから「すべての財産を妻に相続させる」という遺言書があれば、その内容がそのまま通ります。
奥さまが、面識のない親族に署名と印鑑証明をお願いして回る必要はなくなります。

お子さんのいないご夫婦にとって、遺言書は「あれば安心なもの」ではなく、残された配偶者の暮らしを直接左右するものだとお考えいただいてよいと思います。

やな美さん

仲が悪いから書くんじゃなくて、遺された人に手続きで大変な思いをさせないために書くこともあるんですね!

4.遺言書は、家族を疑うから書くものではありません

ここまでの2つのケースに共通しているのは、誰も悪くないということです。
それぞれの生活があり、それぞれの事情があり、それでも全員の合意がなければ手続きが進まない。
それだけのことです。

遺言書がないと、ご家族は、あなたがいない場所で、あなたの財産の分け方を相談することになります。
話し合いそのものを引き受けてもらうのか、それとも自分で決めておくのか。

遺言書を書くかどうかは、突きつめるとその選択です。

「うちはもめない」という感覚は、疑わなくていいと思います。
ただ、もめないご家族にも、越えなければならない手続きはある。
そこだけ、頭の片隅に置いていただければ十分です。

まとめ

  • 家庭裁判所で解決された遺産分割の約8割は、遺産5,000万円以下のご家庭
  • 相続の手続きには、相続人全員の合意がないと進まない部分がある
  • 分けられない財産(自宅など)があると、仲が良くてもそこで止まりやすい
  • 子どものいないご夫婦では、きょうだいや甥・姪が相続人になる
  • きょうだい・甥姪には最低限の取り分を求める権利がないため、遺言書の効果が特に大きい
  • 遺言書は家族を疑う道具ではなく、話し合いを引き受けさせないための備え

次回は、遺言書があると「渡したい人・渡し方」をどこまで決められるのかを取り上げます。

<出典>

  • 民法第900条、第889条(相続人の範囲と法定相続分)
  • 民法第907条(遺産の分割の協議)
  • 民法第1042条(遺留分/兄弟姉妹には認められていません)

遺言書の作成、何から始めればいいか分からず不安ではありませんか?

行政書士わかぞの事務所では、相続・遺言・終活のご相談を承っております。
初回のご相談は無料です。まずはお気軽にお声かけください。

047-701-8705
受付時間 平日9:00〜18:00

松戸市の行政書士事務所です。千葉県北西部・東京都23区にも対応いたします。

<免責事項>

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては、個別の事情を踏まえたご相談をおすすめいたします。記載内容は執筆時点の法令に基づいています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次